2.ジュリオ登場
「てめぇ、ここで何してやがる・・・・・」
イヴァンがガルルと低く唸りながらジュリオを威嚇した。が、一介の兵隊なら尻尾丸めて逃げ出すような、イヴァンのおっかねえ威嚇も狂犬には通じないらしく、ジュリオの表情には何の変化もない。
つうか、イヴァン。尻丸出し状態で唸っても何だかマヌケにしか見えないぜ。
いや、もっとマヌケ・・・・・というか情けねえのは、イヴァンに両足抱えられている自称ラッキードッグの俺なんだけど。
ま、とにかくバカ犬VS狂犬は勝負する前から結果が見えているような気がするのは俺だけか?
ジュリオは、ノックしたけれど返事がなかったし・・・、と漂々と言った後、
「・・・・・・・血の・・・匂いが、した・・・・から・・・・」
そう続けた。
ジュリオの出現にビックリして何となく忘れかけていたけれど、
ああ、確かに出てるな、俺の尻からバージンの証が。
つーかよ、ドアの外から血の匂いを嗅ぎ分けたわけ?
それってなんか凄くね?さすがマッド・ドッグ。って感心してる場合じゃねえんだよな。
結合部の出血を確認したジュリオが叫ぶ。
「・・・っ!ジャンさん!血が・・・・・・・・・・っ!」
そして直ぐさま冷たい視線をイヴァンに向けた。
・・・あ、もしかして何かヤバイ?つーか、もしかして・・・じゃなくてかなりヤバイ?
今ふと思ったんだけど、俺、縛られてるし。
ジュリオから見ればイヴァンが俺を強姦しているようにしか見えないかも。いや、かもじゃなくて実際最初はそうだったんだけれどな。
ジュリオの目がスッと細められ、右手がポケットに入る。
ナイフか?ナイフを出すのか?あわわわわ、ちょっと待ってくれよ。
今こんな状態でジュリオがイヴァンに飛び掛かりでもしたら・・・・・・。
丸腰のイヴァンは抵抗する間も無くケツ丸出しのまま、ジュリオに喉笛掻っ切られ、俺の上で腹上死決定だ。
それだけは嫌だ。是が非でも避けたい。
「ジャンさんを、傷つけるヤツは、誰であろうと、俺は許さない」
ぶっそうな事をブツブツ言いながらジュリオは右手をポケットに突っ込んだまま近付いてくる。その後ろから冷たいオーラが見えるのは多分気のせいじゃない。
・・・・・・マジでやべえかも・・・・・
このままじゃこの部屋は血の海決定。
「ジュ、ジュリオ!落ち着け!」
俺は叫んだ。
この状況を打開できるのは俺しかいない。
ずんずん近付いてくるジュリオに向かって慌てて話しかける。
「だーっ!から!ジュリオ、落ち着いて俺の話を聞け!」
俺はもうとにかく必死だった。ファミリーで殺し合いなんて冗談じゃねえからな。
「ジュリオ、これは・・・・・・えっと、これはだな、・・・・じ、実は・・・・・
ご、合意の上ってやつだ!」
「・・・え?」
俺のコクハクにジュリオの歩みがようやく止まる。
「合意の上・・・・・・?」
ジュリオが訝しげに俺とイヴァンを交互に見る。
「でも・・・・・・、ジャンさん、腕、縛られて・・・ます・・・・よね・・・・」
ああ、そりゃそうだよな?こんな格好じゃ合意なんて言葉、説得力まるでなしだよな。
「あ?ああ、これは・・・っと・・・その・・・、なんつーか・・・・・・」
「・・・・・・やはりイヴァンに無理矢理・・・・」
ぎらり。
ジュリオ殺気復活。
や、だから怖いからやめてくれ。
「ち、違うって!これは!だな、えーと、俺がイヴァンに頼んで縛ってもらったんだ!」
やけくそ気味に俺は叫んだ。
「「・・・・・・え?」」
思い切り見開いて驚いたのはジュリオだけじゃない、勿論イヴァンももギョッとした顔で俺を見た。
あーあ。なーんで俺、コイツ庇っちゃったりしてんだろうね。訳わからんわ。
・・・けど、こうなっちまったのは最後の最後で尻込みしたイヴァンを俺が煽った結果だ。
だから責任は俺にもあるわけで。
・・・・・・おい、イヴァン。ジュリオ怒らせて俺の上で腹上死なんて、お前ヤだろ?俺だってゴメンだ。
だったらここはひとつお前を庇ってやるからそういう事にしておけよ。
ってな意味を込めて俺はジュリオには見えないようにイヴァンに目配せした。
伝わってくれるといいなと思いながら。
「・・・・・・ジャン、さん・・・・、もしかして・・・そう、されるの、好き・・・・なんですか?」
徐にジュリオが口を開く。
好きじゃねえよ!
と大声で否定したいところだが、今ここで嫌いだなんて言えるはずもなく。
「ん?あ、ああ、そうだな。俺、わりとMっ気があるらしくてな」
情けなくもそう答える。
くーっ、泣けるぜ。この場を丸く治める為とはいえ、何故イヴァンに尻を掘られ、それをジュリオに見られ、その上自称M男発言なんかしてんだ俺。
「そう、なんですか・・・・・・」
「そうそう、なんつーかこうされると萌えるっつーか・・・・・」
語尾がゴニョゴニョしちまうのは仕方ねえ。情けなくて何だか泣きそうなんだもん。
「ジャンさんが、そう言うなら・・・・・」
納得したとは到底言い難い・・・というか、微妙に悔しそうな面をして、ジュリオは踵を返しドアに向かった。
危機は去った。
これでジュリオは部屋を出て行く。
イヴァンもこんな騒ぎの後で続きをやろうとは思わないはずだ。
俺の尻は無事だとはいえないが、それでも奥まで突き入れられ、これ以上裂けることは取りあえず回避できたわけだ。
俺は心の底からホッとした。
「判ったらさっさと出て行け。てかジュリオ、お前もヤりてえの?ま、何せコイツはM男だからよ、ヤられてるとこ見られたり、あ、もしかして複数プレイも好きかもな」
・・・・・・バカが調子に乗って余計な口を開くまでは。
部屋を出て行こうとドアノブに伸びていたジュリオの手が、調子に乗ったバカ犬の言葉に反応しピタリと止まる。
イヴァンのバカめ!つうか どんだけバカなんだよ、この野良犬は。
俺の苦労も知らないで。
調子乗るにも程があるっつーの!
「っざけんなよ、イヴァン・・・」
押し殺した声で言いながら睨みつける。
「ふん、冗談だって、マジにとんなよ・・・」
「お前なぁ、ジュリオは真面目なヤツなんだから、からかうのはやめろよな・・・・」
「分かってるって。それよりジュリオが出て行ったら続き、ヤるからな」
「こんな所見られてまだヤル気あんのかよ・・・?」
「あ、あの!」
俺達のこんなゴニョゴニョとした会話を遮ったのは、ジュリオ。
「俺も・・・、ジャンさんに触れたい・・・・・・・」
「はあぁ?」
「・・・っへ・・・?」
一体何を言ってるんだ?ジュリオの奴・・・?
最初マジで意味が分からなかった。
『オレモ ジャンサンニ フレタイ』
ジュリオの言葉を頭の中でリピートする。
って!えええええええええーっ!
「お、大勢・・・の方が好き・・・・・なら、俺も一緒に・・・・・・・、いいですよ、ね・・・・?」
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