たった今、自分の頭の中で汚し辱めた兄だったのだ。
「こんな所で何・・・・してるんだ・・・?明・・・・・?」
「・・・・・・・・・・」
何をしているのかなんて正直に答えられる訳もなく、そうかと言って咄嗟に上手い言い訳も思いつかない。ただ俯いたまま押し黙るだけ。
それが後ろ暗い事をしていたのだと悟らせる行為だとしても、今は気まずくて兄の顔をまともに見ることができなかった。
それにしても何故家に居た筈の兄がここにいるのか、いつからいたのか。
俯いたまま考える。
―――― まさか・・・・・・?
嫌な考えが頭の中を駆け巡り、背中に冷たいものが流れる。
まさか、
『兄貴・・・』と口にしながらイく姿を見られたのでは・・・・?
考えただけで血の気が引く思いがした。
今すぐ逃げ出したい。
この場所から。
しかし足に根が生えてしまったかのようにその場から動けなかった。
すると、じゃり・・・と小石を踏みしめて兄がこちらに近付く音が聞こえ、地面の一点を睨みつけるようにしている自分の視界に兄の靴先が映った。
「・・・明・・・・・・?」
頭上で兄の声がした。そこに侮蔑も嘲笑も嫌悪もない。少し戸惑っているような気はするが、いつも通りの兄の声だ。
もし自分が逆の立場に立たされたらどんな行動をとるのだろうか。
責めるだろうか、それとも呆れるか。いや、多分気持ち悪さが先に立つのだろうか。どちらにしても自分ならそんな現場を見たら声を掛けたりなどしない。そのまま何も見なかった事にして通り過ぎるだけだ。
だから。
兄も偶然通り掛かっただけなのだろう。
何も見られていない。
勿論何も聞かれていない。
希望的観測だが、今はそう思い込みたかった。
「・・・・明、帰ろう・・・。遅いし、風も出てきたし・・・・・ね」
顔を覗き込むように、兄は優しく自分に語り掛けた。
―――― やっぱり大丈夫だ・・・・・・
普段通りの穏やかな声。それに安堵し、俯いていた顔を上げる。
兄は微笑んでいた。
いつもと同じ穏やかな笑みだ。けれども違う。どこかが。
「ん?どうした?明」
兄が肩に手を置いた。
「!」
何でもない事なのに身体がビクリと跳ねた。
肩に置かれた手がやけに熱い。そこから熱が広がって行くようだ。鼓動がドクドクと脈打っているのが自分でも分かった。
「震えてるじゃないか。・・・寒いのか?」
「・・・・・・べ、別に・・・・・・」
寒くなんかない。そう言うより前に、フワリと暖かい感触に包まれた。
―――― なん・・・・だ・・・?・・・・・・って、ええ・・・・っ?もしかして・・・兄貴が・・・・俺を・・・・・抱き締めている・・・・・・・・・・?
突然の兄の突飛な行動に頭が混乱する。
「・・え?・・・あ・・・・・あに・・・・き・・・・・・?・・・・・何して・・・・・・」
何が何だか訳が分からない。でも夜の公園で兄に抱き締められているという状況だけは事実で。
「あ、兄貴、は、離せって・・・!」
取り合えずその腕の中から抜け出そうとしたものの、自分を抱く腕の力は一層強くなるだけだった。
「兄貴・・・?どうしたんだよ・・・・・」
胸に抱きこまれていた顔を上げると、兄の整った顔が直ぐ近くにあって驚く。この顔を先程自分は歪ませていたのだ。
自分の中の淫靡な兄の顔を思い出し、こんな状況なのにズクリと下肢が疼く。慌てて近すぎる顔を横に背け、
「と、とにかく離せって・・・」
そう言った時だった。
「明、・・・・・さっき、俺の事考えながらイッたんだよね?」
「!!」
兄の腕の中で身体が硬直する。見られていたのだ。『兄貴』と呼びながら達するあの瞬間を。
「・・・・ぁ・・・・・・」
今度こそ本気で逃げ出したかった。でも足が震えて動けない。それ以前に、きつく抱き竦められていてそんな事は叶わないけれど。
「見てたよ、最初から・・・・・」
うっとりとしたような兄の声が、
鼓膜に響いた。
穏やかな笑顔の下には
狂気が潜んでいた。
「俺にどんな事してたんだ?」
「っ・・・ふ・・・・・ぅ・・・・・・」
今自分は兄の長くて綺麗な指を口内に含まされ好きなように弄ばれている。
口の中に指を挿れられて答えられないのを分かっているくせに、兄は先程から自分に聞いてくる。
「ね、教えて。こんな風に俺の胸を弄ったのか?」
乳首を爪でかりかりと引っ掻く。
「っん・・・あっ・・・・!」
「へぇ・・・明、ここ感じるんだ。・・・いやらしい身体だね」
恥しい所を全て見ていたという兄の言葉にショックを受け放心状態の自分を、兄は押し倒した。
覗いていたカップルがいたその場所で。
服を捲り上げられ、ズボンを下着ごと下ろされても何故か抵抗できず、兄のされるがままになっている。
全て見られた。覗いている事も、女を兄に置き換えていることも、全て。抵抗する事を妨げているのは絶望という言葉なのかもしれない。
「こうやって俺の後ろに指は挿れた?」
唾液で十分濡れそぼった兄の指が尻の挟間に潜り込む。
「っや・・・、ぁあ・・・・・にきっ・・・・・、や・・・・だ・・・・・・・・」
「明のここ、狭いね。自分で弄らなかったのか?」
弄るわけない。だって自分はいつも兄に挿れる側だったのだ。
「少し我慢して。すぐ良くしてあげるから」
「や・・・・・・むり・・・・・・」
「無理じゃないよ。ほら、もう奥まで呑み込んだよ」
「やだ・・・・・お願い・・・だから・・・・・・抜いて・・・・」
「ダメだよ。明だって俺にしただろう?」
そう。何度も何度も兄を犯した。
でも本当にしていた訳じゃない。全ては自分の想像なのに。
それさえも罪だというように、兄は自分に罰を与える。
「っ・・・・ごめ・・・・・・ん・・・・・ゆる・・・・して・・・・・っあ・・・!」
自分が悪かったのだ。女を兄と重ねて自慰をしたから。汚したから。
兄の長い指が内を探るように蠢き、ある一点を触られた時、その鋭い刺激に全身が粟立った。
「っ!・・・っやぁ・・・・っ!」
「ああ、ここか・・・」
感じた箇所を逃さず兄はそこを執拗に責めた。押し上げられると強い射精感が襲う。先走りが止まらない感覚に慄く。
「・・・にき・・・、やだ・・・・、そこ・・・・っ」
「嫌じゃなくてここが感じるんだろう?明・・・、凄い、いやらしい液がいっぱい出てくる」
兄は嬉しそうに言いながら指を増やした。
グチョグチョと内壁を掻き混ぜる音が静かな公園に響く。
後ろの穴には兄の指が何本入っているか分からない。
身も心もドロドロに溶かされ視界がぼやける。
ガサガサと茂みから音がするのは風なのか、それとも誰かが覗いているのか。
「恐がらなくていいよ、優しくしてあげるからね」
十分後ろが解れると、兄はそう言って反り勃った自分のものを取り出した。
「明、好きだよ・・・・・。ずっとこうしたかった・・・・・」
好きだと。
愛していると。
囁きながら兄が挟間に侵入してきた。
指で解されていたとはいえ、大きく膨らんだ兄の欲望を飲み込む事は苦痛を伴う。
「い・・・・・・た・・・・・、やめ・・・・・」
「明、ごめんね。でも・・・・、もう止まれない・・・・から・・・」
少しずつ少しずつ、
兄が内に入る。自分の中に。
「あに・・・・・・き・・・・・・」
「直ぐに慣れるから・・・・。泣かないで、明・・・」
兄の舌が、いつの間にか零れていた涙を掬った。
「・・・っや・・・・・・・あ・・・にき・・・・・・・ん・・・・・ふ・・・・・っぅ・・・・・・・」
自分のものとは思えない、否、自分のだと思いたくもないいやらしい喘ぎ声が次から次へと出て来る。
兄の形に慣れた後孔は、もはや排泄期間ではなく、快感を生み出す場所と化した。
「明・・・・・、気持ちイイ・・・・・・?」
「ん・・・・・・ぁあ・・・・っ・・・・・、イイ・・・・・よ・・・・・・・あにき・・・・・・・・」
こっそりと公園のカップルを覗きながら、
兄を犯すことを思い描いていた自分はもういない。
「あ・・・・にき・・・・・・、ん・・・・・・ああっ・・・・・・!」
今ここにいるのは
兄に内壁を擦られ善がり狂う自分だ。
「っく・・・・、明・・・・、凄く締まる・・・・・・・」
快楽に満ちた兄の顔が瞳に映る。
「あにき・・・・・・、あに・・・・・・・き・・・・・・」
心の底ではこうなる事を望んでいたのだろうか、
何故こんな風になってしまったのか、もう考える力はない。
「・・・・・・っああ・・・・・・っん・・・・・・・・あ・・・・・・・にき・・・・・・・・・・・!」
『兄貴』と口にしながら欲望を吐き出した。