彼女の幸せそうな横顔を見ながら
本当に良かったと彼は心の底から思った

『イヴァン、私と結婚して』
その昔、本気で迫られた時、彼は自分の気持ちを正直に彼女に告げた
好きな相手がいるのだと
そいつと一緒にこの先も歩いていくのだと
だからゴメンなと彼は彼女に謝った
名前こそ出さなかったが、聡い彼女は彼が誰を強く想っているのか気付いていたに違いない

「ねえ」
「ん?なんだ?」
「私が結婚するって聞いてどう思った?少しは惜しいことしたと思ってる?」
悪戯っぽく覗き込む瞳に
「ああ」
と彼が答えると、彼女は
「ふん、ウソツキね」そう言いながら小さく笑った

少しの沈黙の後、彼女が彼を見上げ言った
「イヴァン、今幸せ?」

その問いには答えず
ただ彼女に微笑みだけを返した

そよそよと優しい風が秋の花を揺らしていた   next→