ぬるぬる






それはボウィック村から山小屋に戻る途中だった。
芸人を装ったジャン達は、暖かい食事と少量だが酒を呑めたこと、更にガソリンまで手に入った首尾を上々と喜びながら農道を歩いていた。
ベルナルドが『俺達は芸人一行だ』と言い出した時はさすがに驚いたが、
(こんなに上手くいくなんて・・・。やっぱ俺はラッキードッグか?)
気の良い村人を騙しはしたが、それでも誰も傷つける事無く済んだことにジャンは満足していた。

月明かりが農道を柔らかく照らしている。勿論こんな田舎道に街灯などない。
月が出ていなかったら戻る道は真っ暗で、来た時より何倍も時間が掛かったに違いない。
天気まで俺に味方してくれているのかもな・・・などと思いながらジャンが月を見上げた時だった。

『・・・・・・スケテ・・・』
ジャンの耳にか細い声が聞こえた。
(ん?)
ジャンは足を止め辺りを見回す。

「・・・・どうかしたんですか・・・?」
すぐ後ろを歩いていたジュリオが不思議そうな顔でジャンに尋ねた。

「なぁ、ジュリオ。今、なんか声が聞こえなかったか?」
「声・・・、ですか?」
「ああ」
「す…みません、俺は何も聞こえなかったです・・・・」
申し訳なさそうに眉を寄せるジュリオに

「あー、いや、いいんだって。空耳かもしんねーし・・・・」
ジャンは慌てて手を振った。

「どうしたんだ?何か問題でも?」

先を歩いていたベルナルドやルキーノ、イヴァンもいつの間にか立ち止まり二人を振り返っている。

「いんや、何でもねえ」
そう言いながらジャンは肩を竦めた。
悪戯な風が草を震わせた音かもしれないし、道の脇を流れる用水が聞かせた音だったかもしれない。
気のせいだと決め付けたジャンは前の三人に追いつくよう足を速めた。
しかし、
『イカナイデ・・・・タスケテ・・・・・』
またどこからか声が聞こえ、ジャンは再び足を止める。
「・・・・また、何か聞こえたんですか・・・・?」
一緒に立ち止まったジュリオに尋ねられ、
「んー、聞こえた・・・・ような気がすんだけど・・・・」
お前は?と視線を投げ掛けると、『すみません』とジュリオは先ほどと同じく小さく謝りながら首を横に振った。
(やっぱ俺の気のせいか・・・・・・)
自分はともかく他の四人、特にジュリオは得意分野が暗殺だけに周囲の気配を敏感に感じ取れる。妙な気配があれば真っ先に気付くだろう。そのジュリオが聞こえないという。気のせいだと判断するのに十分な理由だった。

空を仰ぎながらジャンは大きく息を吐く。
そんなに呑んだ覚えはないが、もしかしたら久しぶりの酒に少し酔っているのかもしれない。
必ずしも簡単ではなかった集団での脱獄。それが成功して少し気が緩んでしまったのか。
家に帰るまでが遠足だという言葉があるが、デイバンに全員で戻るまで気を引き締めて行かなければならない。

改めて周囲を見回すと、見覚えのある景色だった。
村に行く途中、女だ!と色めき立ち、皆で後を追った辺りだ。
丁度いい。冷たい水で顔を洗えば少しは酔いも覚めるかもしれない。

「そういやこの奥に泉があったよな?」
「あ、はい・・・・」

ジュリオも気付いていたのか、泉のある方向に視線をやった。

「ちょっと顔でも洗ってサッパリしてくるわ」
「じゃ、俺も一緒に・・・」
「いいって、先に行っててくれ、すぐに追いつくから」
「でも・・・・・・・・」

ついて来ようとするジュリオに『大丈夫だから』告げ、ジャンは泉のある方向へと足を向けた。



(あん時のルキーノの慌てぶりは面白かったよなぁ)
草を掻き分け泉を目指しながら、襲おうと思っていた女が実は男だったと判り、憮然とした表情で戻ってきたルキーノを思い出すと思わず口元が緩む。
(俺だったら男でも構わずやっていたかもしれねーけどな・・・。挿れられるのはごめんだが、穴があれば同じだろ?てか、男相手の方がきつくて具合いいし。ったく、色男はワガママでいけねーな)

そんな事を思いつつガサガサと草を踏み鳴らし歩いていると泉に辿り着いた。
水面には空の月が浮かんでいる。
(よっこらせ・・・)
水面に近付き水を手に掬おうとしたその時だった。
不意に、泉の真ん中あたりでチャポンと水がはねる音がしてジャンは慌てて顔を上げた。

「っ!?」
水面の月が幾重にもなりゆらゆらと揺れている。
(誰かいるのか?)
息を殺して周囲を窺った。が、辺りは静まり返って怪しい気配などひとつもない。
(・・・魚か・・・・・?驚かせんなよ・・・・・・・・)
ドキドキしている鼓動が収まるのを待ってから、改めて泉の中に手を差し入れた。
(冷てぇ・・・・・・)
パシャパシャと顔を洗い囚人服の裾で拭うと、気持ちが引き締まったような気がした。
立ち上がり大きく伸びをする。
(さてと、戻るか・・・)
ジャンが泉を背にした時、後ろから

『イカナイデ・・・・・・・タスケテ・・・・・・・・・』

またあの声が聞こえ、ジャンは急いで振り返った。

「っ!?」
見るとブクブクと泉の表面が泡立っている。
(な、何だ!?)
その中から突如黒い物体が姿を現し、ジャンは思わず息を呑んだ。
(ななな、なんだーっ!?)
そう思うジャンの前で、その黒い物体はみるみるうちに人の形へと変化する。
(化け物・・・・・?)
ジャンの頭の中にそんな言葉が思い浮かんだ。
それは人の形を模ってはいたが、奇妙な事に顔がなかった。髪もない。全てが黒い、まるで影のような物体だった。
それが月の光を浴びてぬらぬらと光り立っている。
(や、やべぇ、逃げた方が良さそうかも・・・・)
正体不明のものを目の前に、危険を察知したジャンは慌てて踵を返しこの場から逃げ去ろうとした。

「うわっ!」
しかしその場に倒れこんでしまう。何かが足に絡みついたのだ。見ると人型の黒い物体の腕が細長く伸び足に巻きついている。
やべ・・・・・・
ジャンは両手を先へ伸ばし、必死に前へ進もうともがいた。
しかしもう片方の伸びた手が後ろから巻きつくようにジャンの腰を掴んだのだ。

「は、なせっ!」
ジャンは必死で引き剥がそうとしたがぬるぬるして滑って上手くいかない。
爪を立てるとわずかに掴まれた場所が緩み、「よし!」と思ったのも束の間、どこからか伸びた腕がジャンの手首に巻き付き抵抗を封じられた。

「なに・・・!?」
振り返った視界の端に、黒い物体から無数に伸びる細い腕が映る。
(ウソ・・・だろ・・・・)
恐怖に顔が引き攣る。それを合図にしたかのように、腕たちは一斉にジャンに向かって来た。

『ノマセテクダサイ・・・・・』
『タスケテクダサイ』

泉に立ったままの黒い物体から声が聞こえたが、それどころではなかった。
巻きついていた腕がうつ伏せで倒れたジャンの腰を持ち上げ浮かす。
無数の触手がジャンの服の中に侵入しぬるぬると素肌を這いずり回る。その気色の悪さにジャンの肌は総毛立った。

「よせ・・・・」
もがくジャンの身体を押さえつつ、伸びた何本もの触手は胸や脇、腹を遠慮無しに動き回る。
気持ち悪いと思っていたぬめりが徐々にそうではなくなっている事にジャンは気付いた。
(ウソ・・・だろ・・・・)
下肢に熱が溜まっていく。もしかしたら、ぬめりの成分に何か身体を熱くするものが含まれているのかもしれない。

「っん・・・・・」
「・・・は・・・ぁ・・・・ん」
無造作に動いていると思われた触手だったが、ジャンが息を詰めた箇所は逃さなかった。
「や・・・・あぁ・・・・・・・っ」
両方の乳首と臍の下、脇腹を何本もの触手が同時に何度も何度も往復する。ジャンは堪らず嬌声を上げた。
『ノマセテ・・・・・・』
するりと一本の触手が下着をかいくぐった。
「っああ・・・!」
触手の愛撫とも思える動きにすっかり形作っていたジャンの性器にぬるりと巻きついたかと思うと、
「ばか、よせ!そこは・・・・・っあ・・・・・」
ぬるぬると擦るように動き出した。

「ひあ、んっ・・・・・・ふ、ああっ」
その刺激に思わず出てしまった高い声。それに満足したかのように触手は更に動く。
「っん・・・・・・、ああっ、・・・・・・や・・・ぁ・・・・・」

『ノマセテクダサイ・・・・・・・』
(飲ませてって・・・・・、まさか・・・・・)
この正体不明の黒い物体は精液を求めてるというのだろうか?
ぬめぬめと絡みつくように動く触手にジャンは堪らず
「・・・っ・・・、い・・・く・・・・・・っ!」
どくどくと白濁を吐き出した。

ドロリとしたそれを、いつの間にか身体を触っていた触手たちも加わり我先にと吸い付いている。
下着の中で射精した為、布地に吸い付いている触手もいる。
(精液を飲みたかっただけ・・・か?だったらこれで満足して解放されるのか?)
激しい射精感にグッタリしながらそう思った矢先、

『タリナイ・・・・・・・・タリナイ・・・・・・モット・・・・・・・ノマセテ・・・・・・』
信じられない声が聞こえてきた。

「そんな・・・・・・・」
再び触手たちはジャンに襲い掛かった。
達したばかりで過敏になっているジャンの身体をぬめぬめと這い、ジャンの身体に刺激を送る。
邪魔だとばかりにズボンと下着ずり下ろされ、今度は地面に仰向けに押し付けられてしまった。
足を拡げるように絡みつかれ、ジャンの性器が月光の下で露になる。
一本の触手が再び性器に巻き付き、そこから精液を出そうとやわやわと動き始めた。
しかし、先ほど大量に放出したばかりなのだ。

『ノマセテ・・・・・・ハヤク・・・・・』
「・・・や・・・・無理・・・・・・・・・・・」『ハヤク・・・・・・ハヤク・・・・・・モット・・・・・・』
触手は先を急ぐようにジャンの性器を扱きあげた。
しかし中々兆しを見せないことに業を煮やしたらしい。別の触手が、
拡げられたまま身動きできないジャンの足の間にずるずると伸びる。

「っひぁ・・・・・っ!」
後孔にぬるりとした触手の感触に気付いたジャンは焦った。
男にはそこを弄られると堪らなくなってしまう場所が内側に潜んでいるのだ。それをこの触手は知っているのだろうか。
いや、知っているのだ。
そこを嬲って射精に導こうとしているのだ。

「やだ・・・・・、やめろ・・・・・・」
どんなに暴れても無駄だった。近付いた一本の触手は拡げられた足の間で露になっているジャンの後孔にぬるりと潜り込んだ。

「ぐっ・・・・」
ぬめりを帯びていた事と、そんなに太くはなかった事が幸いしたのか殆ど痛みを感じなかったが、妙な違和感がジャンを襲い、更に何かを探すようにぐねぐねと動く。

「気持ち悪・・・・・、抜け・・・・・・っ・・・・・」
『ハヤク・・・ノマセテ・・・・・」
「あああああ・・・・・・・っ!」
ついにその場所探り当てられた。思っていた以上の快感がジャンの身体を駆け抜ける。

「く・・・・・・・っ・・・・・そこ・・・・・・・っあ・・・・・やだ・・・・・・・・・ん・・・・
ジャンの変化に気付いたのか、内側の触手が執拗にそこばかりを突いてくる。
内側の感じる部分を激しく擦られ、いつの間にか前も膨らみ、

「ああ、や・・・・っ・・・・・ん・・・・そこ・・・・・・ダメ・・・・・・・っは・・・ん・・・・・」
望んでなどいない悦びの声が淫らな液と共に溢れはじめた。
グチュ・・・グチュ・・・・・・
尻と性器から卑猥な音が聞こえる。

「や、・・・・だ・・・・・めっ・・・・・ぁああ・・・・ん・・・・・・・・っ」
前に巻き付いた触手もリズミカルにジャンのペニスを扱き上げる。
下半身から湧き上がる激しい快感に、ジャンは堪えきれない声を漏らし全身をがくがくと振るわせた。

ジャンを襲う前後の責めは容赦を知らない。強制的に絶頂へと導こうと動いた。

「ん、はっ・・・・・や・・・・・・んん・・・・・いく・・・・・・ああ・・・・ぁあああ・・・っ!」
ジャンは悲鳴に近い嬌声を上げながら白濁を噴き上げた。触手はそれを舐め取ろうと一斉に下腹部に集中する。

『モット・・・・・モット・・・・・』
「やぁ・・・!あああ!」
激しい絶頂感がジャンを襲っていたが、それにも構わず触手は精液を搾り取ろうと動き続けた。
「んっ・・・んんぅ・・・・あ、はぁ・・・ああん・・・・・ああ・・・・・!」

もう理性などない。狂ったように首を振り嬌声をあげた。
次々と襲い来る絶頂に身体中の痙攣が止まらず、何度目かの絶頂を迎えた時ジャンは意識を手放した。

それでも執拗にジャンの身体に吸いていた触手だったが、やがて全ての精液を搾り尽くし、もう何も出ないと分かると黒い影の本体に静かに戻った。
『コレデ・・・・・モドレル・・・・・』










月明かりの下、口の端を上げる男がいた。
細い裸体。白い肌。肩まで伸びた髪。どこから見ても人間の男だ。
しかし彼は、先ほどまで黒い影のような生物だった。
主食である『人間の欲望』を口にしてこの姿に戻れたのだ。

もし今ジャンに意識があったのなら、その姿に驚いただろう。
何故なら、それは昼間この泉で見掛けた男だったからだ。

彼は倒れているジャンを見下ろして嫣然と微笑むと、
『昼間は飲み損ねたからね・・・、でも君が僕の声を聞き取ってくれて助かったよ・・・』
男は『美味しかった』と赤い舌でペロリと唇を舐め、泉の中へと姿を消した。



水浴びをしていた男は泉の精です(キッパリ)笑
男の精を主食にしているエロ精です(ハッキリ)笑
というか、
そうにしか見えません(爆)どんなファンタジーだ(^^;)

それより何より、タイトルの付け方のセンスの無さが滲み出ていてもうイヤ
ぬるぬるってなんだよ、自分・・・・・・il||li _| ̄|○ il||li
                            
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