囚われた者



















「ただいま、拓人」

リビングのドアを開けて俺が見たものは、後手に縛られ秘孔には玩具を咥え込み
もどかしそうに腰を捩っている拓人の姿だった。


声を掛けると焦点が合わない潤み切った瞳が俺を見上げる。

「しゅう・・・・せい・・・・・」
「・・・すげ・・・・拓人エロ過ぎ・・・」

俺は思わず口の端を上げた。



拓人をこの姿のまま放置し、1日部屋を空けたのは他ならぬ自分だ。

嫌がりもせず、ただされるがままに縛られ後孔にローターを挿れられても、
「今日はこういうプレイなのか?」愉悦の表情すら浮かべていた拓人。
「洲清の好きにしていいよ」
その時は眼を細め口元には笑みさえ浮かべていたが、今は切なく喘いでいる。

「・・・これ・・・抜いて・・・」

拓人は俺の方に尻を突き出し懇願した。
ローターを飲み込んだ秘孔はひくひくと厭らしく震え、性器から零れ出た粘液が床を濡らしている。
それだけじゃない。
よく見ると、拓人の周りには白いものが飛び散っていた。
奥で蠢く振動が堪らず、それでも手を使えないもどかしさに、
自ら床にでも擦りつけて昇り詰めたのだろう。
拓人の痴態を見たかったと、心の中で臍を噛む。


「・・・抜いて・・・洲清の挿れてくれよ・・・・お願い・・・・だから」

切なそうに身を捩りながら拓人は俺を求める。
全く浅ましい淫乱な躯だ。

「挿れて欲しい?」

拓人は哀願するようにこくこくと頷いた。
その顔は欲情しきっている。今ならどんな淫らな願いも叶えてくれるだろう。

俺は拓人の熱に浮かされたような視線を受けながら、飛び散った残滓を避けソファに座った。
尻を高く掲げたまま俺の動きを追っていた拓人は、その意味を察したようだ。
俺の前に近付き跪く。
そして形の良い唇を薄く開き、ジッパーを軽く歯で咥えゆっくりと下ろし始めた。







拓人を初めて抱いたのは雪が降る寒い夜だった。

その日は、
『ねー、拓人の携帯繋がらないんだけど、しゅーせー何か知ってる?』
司が心配そうな声で電話を掛けて来た日でもあった。
拓人と連絡が取れない。俺は焦れた様子の柴又から同じような電話を再三受けていた。
同じ内容でも、柴又の方は拓人が無視しているだけだろうと思っていたのだが。
しかし司まで連絡が取れないとは。
意識的に「いい人」を演じている拓人が、
自分から仲間に心配を掛けるような事をする筈がない。
俺は不吉な予感に見舞われた。

自分も拓人に電話をしてみようかと、その日何度も携帯を手にした。
でも、
『お前を抱きたい』
男同士の行為を異様なまでに毛嫌いしている拓人にそう告げた自分も、
柴又と同じように無視されるのがオチだろうと、
結局、携帯を握り締めた数だけ、溜め息と共に机に放り投げた。

だから。
深夜インターフォンが鳴り、こんな時間に一体誰が?
そう思いながら開けたドアの先に拓人が立っていた時は少なからず驚いた。
しかも驚いたのはそれだけではなかった。
柔らかな色合いの髪は雪で濡れ、頬を伝う雫は涙にも見える拓人の顔。
その顔にいつもの微笑み・・・、いや、いつもより艶やかな笑みを乗せて、

「洲清、まだ俺とヤりたい?」

唐突にそう言ったからだ。

「!?」

驚きのあまり声も出ないとはよく言ったものだ。
その時俺は本当に言葉を失った。




男同士の行為をあんなに嫌悪していた拓人が
一体何を言っているのだろうか。
冗談か、それとも自分の聞き間違いなのか。



聞こえた言葉が正しかったと認識したのは、

「・・・洲清・・・、・・・俺とヤろう?」

焦れったいとばかりに拓人が唇を押し付けてきた時だった。
その唇はヒヤリと冷たくて。

「あったかいな・・・洲清は・・・」

拓人はクスリと笑い、未だ呆然としている俺の口内に今度は舌を滑り込ませてきた。

何かがおかしい。
今俺の目の前にいるのは誰だ?
拓人であって拓人ではない。拓人がこんな事をするはずが無い。
けれど。
ずっと抱きたいと思っていた拓人が、
そして、叶わないと思い諦めていた拓人が。

今俺の首に手を回し、

「・・・しゅ・・・・・せ・・・・い・・・・・・・・・・」

途切れ途切れに俺の名を呼びながら懸命に舌を動かしている。

拒む理由が何処にあるのだろうか?

気が付くと俺は拓人をきつく抱き締め、誘いに応えるようにその舌を絡め取っていた。

「嬉しいよ・・・洲清・・・」

夢見心地で呟く拓人の声がいつまでも耳に残った。







「ん・・・・んん・・・しゅう・・・・せ・・・・」

淫猥な水音と拓人の鼻に掛かる甘い声が静かな部屋に響き渡る。
未だに自由を奪われた体勢で俺の股間に顔を埋め、張り出したペニスを懸命に舐めしゃぶる。
ねっとり唾液を絡ませ吸い上げる口元からは飲みきれない唾液が零れ、その綺麗な顔を淫らに汚す。
ちら・・と俺を窺うように見上げる上気した顔が堪らなく扇情的だ。
その瞳は、まだ挿れてくれないのかと訴えているようで、俺の股間は更に質感を増す。

『拓人とヤったら絶対嵌る』
考えていた通り俺は拓人に嵌った。

拓人を抱いてから付き合っていた女は全て切った。
その綺麗な顔からは想像できない程厭らしい躯を知ってしまえば、どんな女だって物足りない。

あれだけ男同士の行為を嫌悪していた拓人が、どんなきっかけでこんな男を咥え込む躯になったのか、
理由は分からない。
もしかすると遼太が突然居なくなった事と何か関係があるのかもしれない。
だけど
拓人とヤれるのなら,、そんな小さな事は別にどうだっていい。
物欲しそうに涎を垂らす拓人のペニス、誘うようにひくつく後孔。
貪欲に快楽を求める今の拓人が本来の拓人の姿だ。


もどかし気にくねる白い躯。そこには紅い花弁のような疵が無数に散らばっている。
首にも、胸にも、背中にも。
今は見えないが足の付け根にもそれはある。
これらは俺が付けたものではない。
柴又が付けた疵だ。
俺だけじゃ足りないとばかりに、拓人は柴又にも抱かれる。
今後自分に興味を示す男が現れたら、拓人は簡単に躯を開いてしまうだろう。
そして拓人を抱いた者は、たちまちの内にこの躯の虜となってしまうに違いない。



「・・・クソッ・・・・!」

嫌でも目に入る疵痕に黒い感情の波が押し寄せ、俺は拓人を無理矢理引き剥がした。

「拓人、もう柴又の所には行くな」

「・・・ぇ?」

不思議そうに俺を見上げる拓人の肩を強く揺さぶった。
終わってるな。と自分でも思う。
拓人を独占したい気持ちが抑えられなくなって来ている。


「俺だけにしろよ」
「・・・洲清・・・だけ・・・・・・だよ?」

俺の言っている意味が分かっているのかいないのか、
拓人は妖艶な笑みを口元に浮かべながらそう返す。

「・・・どうしたんだ?洲清・・・。前にも言ったろ?洲清が裏切らなければ、ずっと俺の側にいられるよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」

違う。
そうじゃない。
今だけではなく、
他の男と共有するのではなく、
ただ俺だけの拓人に。

そう言葉に出そうとしたが、拓人に昂ぶりを喉奥まで飲まれ思考が霞んだ。

「・・・んん・・・・・は・・・・・」

拓人は甘声を出し卑猥な水音を立てながら、ねっとりと舌を蠢かす。
霧のように霞む思考で俺は思った。


俺は拓人を手に入れたつもりだった。でも、もしかしたら逆なのかもしれない・・・と。

そう、
捕らえたのではない。
囚われたのは俺の方だ。

柴又も拓人を手に入れたと喜んでいるだろう。しかし、
あいつも拓人に捕まったうちの一人だ。

この果てしなく淫らな躯に囚われたのだ。

拓人を縛り付けても
縛られているのは自分だ。

「・・・んん・・・しゅ・・・・せぃ・・・・」
「っ!」


先端を強く吸われ、俺は導かれるように拓人の温かな口内に欲望を撒き散らした。




「洲清・・・・俺を裏切っちゃダメだよ・・・」

微笑んだ拓人の優しく歌うような声が足元で聞こえた。








煌と遼太をぶっ殺した狂い拓人の洲清ED。素晴らしいBAD END。
拓人を縛っているのに、拓人に縛り付けられている洲清激ラヴ。





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