「おーい、ジュリオー、いるかー?」
「あ、ジャン、さん・・・・・」
昼下がり、ジャンさんが俺の部屋に顔を出した。
珍しいな・・・・・。そう思いながら俺は読んでいた本を閉じジャンさんを部屋に迎え入れた。
ジャンさんは部屋に入ると辺りをキョロキョロ見回し始める。
??
どうしたんだろう?今日のジャンさんは少し変だ。
落ち着きが、ない。
「どう・・・、したんです・・・か?」
「え?あ、ああ、んーーと、ちょっと探し物・・・・つーか・・・・」
歯切れも悪い。
「あ、あのさ、ジュリオ」
「・・・・・はい?」
「こんくらいの太さの、棒みたいなものって、何かない?」
そう言ってジャンさんは右手の親指と人差し指をくっつけて丸くした。
「あ、実物はこれよりもうちょっと太いんだけどよ・・・」
「・・・・・・実物・・・・・・って、何です・・・・か?」
「ぶっ!」
あ、ジャンさんの顔が真っ赤になってしまった。
変なコト、聞いちゃったのかな?俺・・・・・
そうだ、質問を変えてみよう・・・・・。
「え・・・と、その・・・・・何に・・・、使うんですか・・・・・?」
あ、耳まで真っ赤だ・・・・・。
どうしよう。
俺はごく普通の事を聞いたつもりだったんだけど、ジャンさんが、茹蛸みたいになってしまった。
「なななな、何に使うって・・・・・・」
ジャンさんは酷くうろたえている。
俺が、いけなかった・・・・、のかな?と、とにかく謝ろう。
「す、すみま、せん・・・・、俺・・・・、余計な事・・・・聞いてしまって・・・・・・」
「あー、いや、謝んなくていいって。・・・こっちこそ悪かったな・・・・突然来て変なコト聞いて」
「いえ・・・・・、あ、ジャンさん。野球のバット・・・・・なら探せばどこかにあると思いますけど・・・・・」
ジャンさんが示したものよりずっと太かったが、今あるものといったらそれ位しかない。
「・・・・バット・・・・?」
ジャンさんは何故か目を泳がせ、「バット・・・・は・・・さすがに太すぎだろ・・・、ありえねえ・・・・・」等と口の中でブツブツ呟いていた。
・・・・・・・バットじゃ・・・ダメ・・・・なんだ。
何に使うのかさえ教えてくれれば、いいアイディアが出るかもしれないけれど。
棒、棒・・・と考えを張り巡らせていて俺は思いついた。
「ジャン、さん、・・・・・パンを捏ねる棒・・・・・・というのは、どう・・・ですか?多分、このホテルの厨房に・・・・あるんじゃ・・・・・・」
「そうか!それだ!」
ジャンさんは『ジュリオ、サンキューな』と言い残し、急いで部屋を出て行った。
よかった。ジャンさんのお役に立てて。
しかし、ジャンさんは数分後、『思っていたより細かった』ガックリと肩を落とし戻ってきた。
なかなかねぇもんだなぁと、疲れたように溜め息をこぼすジャンさんに、
「ジャン、さん・・・・・、気を落とさないで、下さい・・・・・。あの・・・・・、よかったらこれ・・・・・・」
疲れたときには甘いモノ。
俺はチョコレートでコーティングされた菓子が入っている包みを差し出した。
「・・・これ・・・・・・!」
途端にジャンさんの顔が明るくなる。
あ、俺が渡した菓子、さっきジャンさんが言ってたくらいの太さかも・・・・。
なんだ、食べ物でも、いいのか。
「ジャン、さん。・・・・食べ物で良いなら・・・・、その菓子もそうですけれど、フランクフルト・・・・とか、きゅうり・・・・とか、ナス・・・・なんかも・・・・結構あります・・・・・よ・・・・・?」
「そうか!そうだったな!」
ジャンさんは嬉しそうに俺の肩をバンバン叩いて、再び部屋を飛び出した。
今度こそ、ジャンさんのお役に立てたのかな?
一時間ほどして、ジャンさんはまた俺の部屋に来た。
「ジュリオ、ありがとな。これお礼。食ってくれ」
「はい・・・・・?」
差し出された紙袋を覗くと黄色一色。
中身はバナナで一杯だった。
しかもよく見ると房ではなく一本一本に分かれている。不思議そうにジャンさんの顔を見ると、
「悪ィ。太いヤツだけ厳選してたらバラバラになっちまってよ・・・・・」
太いバナナ・・・・を、何に使うんだろう・・・・・?
でも、聞いたらまた、ジャンさんを、困らせるかも・・・・・しれない・・・・。
そう思っているうちに、
「んじゃ、ありがとな」
ジャンさんはそう言い残し、「特訓、特訓!」と言いながら部屋出て行き、
俺はその嬉しそうな後姿を見送った。
後日、ジャンさんとルキーノが二人でいるところに遭遇した俺は、
「ジャンさん、ありがとうございました。美味しかった、です」
先日ジャンさんに貰ったバナナのお礼を言った。
「そ、そうか?そりゃ良かった」
「そういえば、ジャンさんの、太い、バナナも美味しかった、ですか?」
「ぶっ!」
「今度会ったらお聞きしようと思っていたんですが、バナナって、太い方が、美味しいんですか?」
「ぐっ!」
「っていうか、何に使ったんです・・・か?」
「ぐはっ!」
ジャンさんは恐ろしくうろたえ、隣にいるルキーノがその肩に手を置きながら
「ただ単に、コイツは太ぇバナナがが好きなんだ。なあ?」
何故かニヤニヤしながら意味ありげに答えると、
ジャンさんの顔がまた茹蛸みたいに、真っ赤になった。
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