「どうだ?イイだろ?」
ジャンの股間に顔を埋め、滾ったペニスを口腔にずっぽり咥え込んでいたルキーノが顔を上げた。
薄く笑いながら濡れた唇をペロリと舐めるその仕草が淫猥で。ジャンは既に熱くなっている身体を益々熱くさせた。


初めての・・・


『いいコトしてやるよ』
その日、二人きりになるとルキーノはニヤリと笑いながら、見るからに高級そうなスーツの上着を脱いだ。
「ジャン、お前も脱げ。そのままだと皺になるからな」
「へいへい」

適当に返事をしながらジャンが上着を脱ぎ捨てベッドの上にバサリと放ると、

「ったくお前は・・・」

ブツクサ言いつつルキーノはジャンの上着を手に取った。大きな手がそれをハンガーに掛ける姿を目で追いながら、ジャンは訪ねる。

「なあ、ルキーノ」
「ん?何だ?」
「いいコトって、何?」

その問いには答えず、その代わり「そこに座ってちょっと待ってろ」ルキーノはベッドを顎でしゃくった。
―――― 肩でも揉んでくれるんかね?



今夜は会議という名目で、ホテルの一室で先刻まで古参のジジイ共と腹の探りあいをしていたジャンはヘロヘロに疲れていて。
「昔は昔、今は今。ったく、頭の固い連中だな。何で分かんねーのかな。あのジジイ共。な?ルキーノもそう思わね?」
解すように回した首がコキコキと鳴った。

「まあ、そう言うな。時代が変わったことは皆分かってる。言いたいヤツには言わせておけ。それよりジャン、カポとして貫禄が出てきたな」

古参連中とのやりとりを終始黙って見ていたルキーノがジャンの肩に手を置き労う。

「そっか?」

ジャンは顔を綻ばせ素直に喜ぶ。ルキーノに褒められると悪い気はしない。
カポ就任1ヶ月。貫禄が出てきたかどうか正直自分では分からないが、もし本当にそうならルキーノのおかげだと思う。
組織内部の事など右も左も分からずカポになった。こんな簡単な事聞いて怒られねえかな?そう思うことも、ルキーノは馬鹿にせず一から懇切丁寧に教えてくれた。

―――― それにこの格好も
ジャンは自分の全身を見渡す。
高価なスーツ、シャツ、センスの良いネクタイ、ピカピカの靴。これらは全部ルキーノが選んでジャンに与えてくれたものだ。
派手過ぎず、地味過ぎず、センスの良いそれらはジャンを風格ある男に見せるために一役も二役も買っていた。
ルキーノ曰く、
『新しいボスが安物を身に着けていたんじゃ様にならねえし、組織自体も安く見られる』
だそうで。
会議に赴く前、この部屋でルキーノと交わした会話を思い出す。

「今日はこのスーツを着ていけ。シャツはこれだ。ネクタイはコレだな」
「へいへい・・・・・って、着せ替え人形かよ、俺は・・・・・」
「文句を言っていないでさっさと支度をしろ」
「へーい」

ルキーノのセンスは完璧だ。文句のつけようがない。が、つい先日まで囚人服が普段着と化していたジャンにとって、完璧な服装は少々窮屈に感じてしまう。

「なぁ、ルキーノ・・・、ネクタイ、少し緩めてもいっか?」

遠慮がちに聞くと、

「だめだ」

即座に否定されてしまった。

「お前がカポになった事を不満に思っている古参連中もいるんだ。隙を作るな」
「へいへい・・・・・・・」

やれやれといった具合にジャンは肩を竦めたが、ルキーノの言い分は確かに正しい。
ジャンは緩めようと手に掛けたネクタイから手を離した。



そんなやりとりがあった同じ部屋で、今ジャンはネクタイを緩め、ルキーノに言われた通りベッドの端に腰を下ろした。

「さて、始めるか」

ルキーノはそう言うと、ジャンの前に立ちはだかった。
ん?
肩揉むんなら後ろだよな?何故前?
不思議に思いルキーノを見上げると。

「うおっ!」

思いの外間近にルキーノの顔があって驚いた。驚いたままの顔に更にルキーノが近付き、そのまま唇を塞がれる。

「・・・・っん・・・・・」

噛み付くようなキスだった。口腔を荒々しくルキーノの舌が這い回る。
い、息!息ができねえ!
あまりの息苦しさに首を振って逃れようとしたジャンだったが、ルキーノの手が両頬をがっちり挟んでいてそれは適わなかった。

「んんっ・・・・、は・・・・・・ぁ・・・・・、はぁ・・・・・」

弱い上顎を擽られ舌を甘噛みされ吸われる。まさにルキーノの好き放題に口腔を貪られた。
ようやく唇が離れた頃には『殺す気かよ!?』などと文句も出て来ない程グッタリしてしまい。
その様子を見たルキーノは満足そうに笑んで、ジャンの足元にスッと跪いた。
何だ?
そう思う間もなくルキーノはジャンの膝を掴み、そのまま左右に大きく割った。

「ぇ?・・・っうわ・・・・・!?」

やばい。やばいぞ。
ジャンは慌てた。ルキーノの激しいキスはジャンの股間に変化を与えていたのだ。
ルキーノのキスが上手い事は認める。認めるが、それでもキスだけで昂ぶってしまったと思われるのは何だか悔しくて。
感付かれるのが嫌で慌てて膝を閉じようとしたジャンだったが、時既に遅し。
足の間にはルキーノの大きな身体があって閉じることはできない。
―――― ああ、くそ!信じらんねえ・・・!
そう思うと同時にルキーノの手がバックルに伸び、
ジャンのベルトを手際よく引き抜いた。そしてそのままボタンを外しジッパーを下ろしたのだ。

「おおおおおい、ちょっと待て!」

ジャンは声を荒げ反射的に腰を引こうとしたが、ルキーノのもう片方の腕がそれを許さなかった。

「・・・っう・・・」ルキーノが、下着の上からジャンの急所を握り揉むように手を動かし始めた。「っあ・・・・」

ビクリと身体を強張らせた一瞬のうちに素早く下着をずり下げられ、ジャンの昂ぶった性器がルキーノの目前に晒された。
数度ルキーノの大きな手で上下に扱かれ、先端の窪みから透明な液が滲む。それを間近でルキーノに見られているという羞恥にジャンは居たたまれなくなりギュッと目を瞑った。

クチュクチュ・・・・・自分が出した液がルキーノの手を汚し淫猥な音を立ている。
すると、それに紛れて

「ふっ」

股の間でルキーノが小さく笑うの声が聞こえた。
―――― まさか!俺のチンコ見て鼻で笑いやがったのか!?
ジャンは我に返ったように目を開いた。

「何・・・・笑ってんだよ・・・」

ルキーノを軽く睨み付けながら押し殺した声で言う。
―――― どうせキスだけでおっきくなっちまったよ。でも仕方ねーじゃん。お前のキス凄ぇんだもん。
とは、悔しいから言葉には出さない。

「いや・・・、可愛いと思ってな」
「かっ!」

可愛い!?何がだ?サイズか?形か?つうか、言うに事欠いて俺のブツを可愛いとは一体何事だ!?むきーっ!

恥ずかしさと怒りで声も出せずジャンがわなわなと震えていると、ルキーノが液が滲む先端をペロリと舐めた。

「っん・・・・っ!」

思わず声を詰める。どうしたんだ?今日コイツ変だ・・・・・と思った次の瞬間。

「う、うわっ!」

ジャンのペニスはルキーノの口内に飲み込まれていた。
足元に傅きペニスを咥えるルキーノの姿にジャンは正直驚いていた。

ルキーノと身体の関係を持って2ヶ月ほどになるが、今まで『舐めろ』と言ったこともなかったし、逆に『しゃぶれ』と強要されたこともなかった。

『同性の性器を口でご奉仕』というやつはさすがに自分から進んでやりたい行為ではなかったし、それは多分ルキーノも同じだろうと考えていたのだ。
それで良いと思っていた。
第一、いつも偉そうな態度のルキーノが、そんな奉仕染みた行為をする所など想像すらできなかった。
その、想像すらできなかった行為を、今ルキーノが眼下でしている。
ピチャピチャと舐めしゃぶる音、滑って温かな口腔。紛れもなくルキーノが自分を愛撫している。
そのことに驚きを隠せなかった。

「んぁ・・・・・・んん・・・・・・・」っ!」

ルキーノの唇はキスをしている時と同じ、いや、それ以上に激しく動き、ジャンのペニスを愛撫し、心と身体を同時に蕩けさせていく。
先端を抉りくびれを舐められるとジャンの背中は快感に反った。
奥まで呑み込まれた口の中で肉厚の舌が蠢くと堪らなくいい。

「ん、・・・・・・や・・・・ルキ・・・・・っ・・・・・・・それ・・・・・・ちょ、や・・・・・・ばい・・・・・・・って・・・・・・・・・っ」

太腿が震え、熱が一箇所に集中する。解放が近いことをジャンは悟る。
キスだけで勃ってしまった上にペニスを可愛いとからかわれ、口淫では秒殺。
そりゃちょっとまずいだろ。
ルキーノに後で盛大に馬鹿にされるような気がする・・・・
ジャンは快感の渦に巻き込まれながらそう思った。
だったらどうすればよいか。この局面を打開するには、口淫を今すぐ止めさせるか自分が射精を我慢するしかない。
後者は無理。
絶対無理。
そう考えたジャンは、器用に動く唇を下肢から引き離そうとルキーノの髪を掴んだ。

「っ!ん・・・や・・・っ」

しかし尚一層強く吸い上げられてはその腕に力も入らない。
身体を捩って逃げを試みる。そんなに強い力で腰を押さえつけられてるわけではなかったが、やはり逃れられなかった。それどころか、逃げようとした罰とでもいうように、更に激しく吸い上げられた。
―――― もうダメだ。イく。
ジャンがそう思った時、ふいに唇が離れた。

「や・・・・」

急に失われた快感を不服とする声が出た。眼下でルキーノがニヤリと笑う。
男のブツを咥えているというのに下卑たところなど一つもなく、それどころか悔しい事にいつもより増して男前に見えるのは何故なのか。

「どうだ?イイだろ?」

その男前の顔は自身有り気にそう言った。しかし、

―――― ん、ルキーノ、凄ぇイイ。アンタのフェラチオは絶品だぜ。
・・・・・・そう思っていても、いや、実際そうなのだが、あまりにも自信満々なその態度が微妙に悔しくて、ジャンは口を噤んだ。

「おい、無視するな。イイって言えよ、ほら」
「っん・・・・・」

肉厚の舌でべろりとくびれを舐められて、ジャンの背中が戦慄いた。
―――― ばーか、んな事、いちいち聞かなくても、俺のこの状態見りゃ分かんだろ?
しかしルキーノは言うまで許してくれないらしい。

「お?言わねえつもりか?・・・・・ふーん、ま、そういう気の強ェところは嫌いじゃないけどな」
「っひ・・・・」

嬉しそうに言うと強い力でペニスの根元を握り、尖らせた舌先で先端を抉られた。

「っああ・・・・ん・・・・」
「ん、イイ声だ。・・・・・なぁ、イイって言えよ。言わなかったらイかせてやらねえぞ」

意地悪な台詞と共に再びジャンのペニスをルキーノは咥えた。
根元をきつく掴まれたまま頭を激しく動かされては堪らない。

「ひっ・・・・・・・、や・・・・・、っん・・・・・ふ・・・ぅん・・・・
・・・・・」
ジャンの口から絶え間なく喘ぎ声が零れる。放出したい熱がルキーノの手で塞き止められ、苦しさと快感の挟間で激しく悶えた。
―――― やべ、このまま焦らされたら狂っちまいそうだ。出してえ・・・・・ルキーノの自信満々な態度が何だ!?いつもの事じゃねえか。つまらない意地張ってる場合じゃねえ。

「・・・っ・・・、ルキ・・・・・、あ・・・、やめ・・・・・っん・・・・・・はぁ・・・・っ・・・・・」

絶え間なく唇でペニスを扱かれる。イイという言葉も紡げないほどの快感をルキーノはジャンに与えた続けた。


結局、「イイ」と言う間もなく責められ続け、快感に気を失う寸前で塞き止められていた根元を解放されたジャンは、そのままルキーノの口の中で達してしまった。
極限まで追い込まれた後の大量の放出、それをルキーノの口の中に出してしまった罪悪感と嚥下された羞恥心でジャンはグッタリとベッドに沈んだ。
ぼんやりと天井を見上げながら息を整えていると、すっと影が差しジャンの眼前がルキーノでいっぱいになる。
真剣な眼差しで真上から見下ろされ、再度
「どうだ、良かったか?」
と問われ、思わず横に目を逸らした。しかしルキーノも諦めない。首を傾け無理矢理ジャンと視線を絡める。
―――― 面倒くせえヤツだな・・・・・。言葉にしなくちゃダメなのかよ・・・。こんなに盛大にイったんだからそれでいいだろ・・・?


「ったくアンタは・・・・・・・。そんなこといちいち聞くなよな・・・」

溜め息を吐きつつ、ポツリとジャンは呟いた。

「聞きたいんだよ、お前の口から」

ルキーノも引き下がらない。
仕方ねえなという風にジャンは、ボソボソと口を開いた。

「・・・・・・・・・フェラ・・・・嫌いな男なんて・・・・・・・・・いねえっつーの・・・・」
「それは良かったということか?」

しつこい、と思いつつも、真剣な顔のルキーノに押され、つい「ウン」と頷きながら、

「・・・・・・良かったよ・・・・」

素直に言った。
ルキーノは一瞬ホッとした表情を浮かべた後破顔一笑した。
その笑顔につられるようにジャンの顔にも笑みが浮かぶ。
こいつがこんなに嬉しそうにするなんて。
羞恥心とか罪悪感とか、胸に痞えていたものがスッと流れた気がした。素直な感想が口を吐く。

「ていうか、凄ぇテクだったぜ」
「そうか?」
「もしかして男の咥えんの、初めてじゃねえんじゃねーの?」
「馬鹿言うな。こんなことするのは後にも先にもお前だけだ」

真顔で言われ、ジャンの方が赤面する。それを隠すように

「そ・・・なの?それにしちゃ随分と上手かったんですけどね?」
「自分がされて嬉しいことをお前にやっただけだ」
「へぇ、女にしゃぶられたテクを思い出して俺に披露してくれたってわけ?」

少しばかり嫌味な口調で言うと、

「妬いてんのか?」
と返された。

「ちげーよ。マジですっげー気持ちイイからさ、今までアンタのを咥えた女達に感謝しねえとなとか思ったりしただけだ」

本当は、少しばかり嫉妬も混じっていたかもしれないけれど、過去は過去、だ。

「・・・そうか」
「ていうかよ、アンタが・・・・その・・・・・口でしてくれるなんて思わなかったっつーか・・・・・」

そう、これだけは本当に意外だったのだ。

「・・・まあな・・・・。確かに俺も、男のブツを咥える日が来るとは思わなかったけどな」

ルキーノは口の端を上げながら、でも今夜は狸相手に頑張ったしな、ご褒美だ、ご褒美。おまえ可愛かったし。そう言ってジャンの頭をクシャクシャと掻き回した。

「・・・あ、あーっ!」

ふと思い出してジャンが叫ぶ。

「おい、ルキーノ!そういやさっき俺のチンコ見て可愛いとか言いやがったよな!?」

ムッとした顔を作りルキーノに問いただす。

「あ?・・・・ああ・・・・、言ったな、確かに」
「どういう意味だ!?」
「そのままの意味に決まってるだろう」
「なっ・・・・!」

だから!何が可愛い!サイズか形か大きさなのか?

「まあ落ち着け。確かに言ったが、息子のことじゃねえぞ。あんあん喘いでるおまえの顔が可愛いって思ったんだ」

な、なんだ、そうなのか。
ブツの評価ではないことには一安心だが、喘いでいる顔が可愛いというのも男としてどうだろうか?
不服そうに口を尖らせると、

「そういう顔も、可愛い」

ルキーノにその唇を啄ばまれた。
俺が?可愛い??
男が男に言われて嬉しい台詞ではないが、ルキーノに言われるのは嫌ではない。
末期なのだとジャンは思う。
ルキーノの目を真っ直ぐに見つめると、男前の顔が優しげにジャンを見返す。

「俺、アンタのこと好きだぜ、ルキーノ・・・・・」

ジャンの口から自然と言葉が出た。

「ふん、今更何を言ってるんだ?」

ルキーノが偉そうに鼻を鳴らす。が、視線は優しいままで。

「今度はアンタが気持ちよくなる番だ」

ジャンはそう言いながらルキーノの首に手を回し口付けた。


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